育てるには
 
 専門家による合理的なより良い方法が数多くあると思いますが、それは市販の書籍に譲ります。ここでは、私の住む広島市街地(海抜5m以下の低地で排気ガスが非常に多い)で、早朝と夜しか植物に接しないという悪条件下での、私の育て方を述べてみます。
 
[T]自生地から学ぶ
 
@温度について
 
  カトレヤの自生地はPart2にみてきましたように、南北緯30度以内の熱帯・亜熱帯地方ですから、非常に日差しが強いのですが、すべて高地のため、気温が年間を通してほぼ一定し、平均して10〜30℃ということです。したがって、日本、特に私の住む広島など西日本の夏は連日30℃を超えるため暑すぎます。また冬は10℃以下になり、寒すぎます。しかし、暖房器具の発達により、冬越しは比較的楽になりました。むしろ問題は夏です。趣味のカトレヤのために冷房装置をつけるのはぜいたくですから、夏越しが課題です。 
A着生について
 
 カトレヤは着生蘭です。樹上の幹や枝や岩石のくぼみなどに着生しているようです。そこには樹皮やわずかな落ち葉(腐葉土)などしかありません。
 こうした条件のなかで、カトレヤに共通しているのは、まず水を貯める「バルブ」という肥大した茎を持っていることです。   カトレヤの形態
 そして、は厚くここにも水分を蓄えることができます。
 さらに、太くスポンジのようになっていて、雨水だけでなく、空気中の湿気まで吸い取りながら、周囲の堅いものに付着していく性質があります。
 したがって、排水がよく根が空気に触れながら成長できるような植え込み材料を工夫する必要があるのです。                 着生蘭の自生概念図
 
B湿度について
 
 カトレヤの自生地は熱帯地方特有の雨期乾期があり、雨期の方が長いようです。そして、乾期も霧が発生しやすく、完全に乾燥してしまうことはないようです。一般には、雨期に成長し、乾期に休眠しながら花をつけます。
 西日本で育てる場合は、雨期を3〜9月乾期を10〜2月と考えて、水やりを工夫するとよいようです。
 
C肥料について
 カトレヤの自生の仕組みからみると、肥料は非常に少ないと思われます。わずかな腐葉土や枯れた苔と、偶然に落ちる鳥や動物の糞くらいでしょう。
 日本で栽培する一般の草花と同じような感覚で肥料を与えると、必ず根腐れしてしまいます。 
 
 D光合成について     CAM型植物のふしぎ
 
  カトレヤは、昼間は熱帯の強い日差しに耐えています。厚い葉のなかの水は体温を抑える効果もあるようです。さらに、一般の植物は昼間日光を利用して光合成を行いますが、カトレヤはこの昼間の強い光線下での光合成を避けて、夜間に行うのです。強い光線の中で葉の気孔を開いて二酸化炭素を吸収しようとすると、逆に葉の中の水分が蒸発し、しおれてしまうからと考えられています。昼間得た光エネルギーをリンゴ酸などの他の物質に変化させておき、夜間気孔を開いて二酸化炭素を吸収し、昼間作った物質をエネルギーに換えて、根から吸い上げた水と化合させて光合成と同じ作用をするのだそうです。
 このような植物はベンケイソウの仲間にも見られ、「CAM」型植物(Crassulacean Acid Metabolism =ベンケイソウ型有機酸代謝)と呼ばれ、ファレノプシス(胡蝶蘭)など、ラン科には多いようです。高温/乾燥に最も適応した形態で、このような植物の変化を「温度適応」(Adaptation for Temperature)と呼ぶんだそうです。
 カトレヤのこのCAM型植物の形態から、水も夜間に多く吸収するので、水やりは夕方から夜にかけてする方が良いようです。朝から昼間にかけて忙しい人間にはもってこいの植物なのです。
 
                                                             自生概念図