万葉の悲劇 その十四・その十五 人麻呂の死の謎 |
研究資料 |
鴨 山 五 首(かもやまごしゅ)
巻二 柿本朝臣人麻呂、石見国に在りて死に臨(のぞ)む時に、自(みづか)ら傷(いた)みて作る歌一首 223
鴨山(かもやま)の 磐根(いはね)しまける 吾(あれ)をかも
知らにと妹が 待ちつつあるらむ (鴨山の 岩を枕に伏している そんなわたしを 知らずに妻は 待っていることであろうか)
巻二 柿本朝臣人麻呂が死にし時に、妻依羅娘子(よさみのをとめ)が作る歌二首
224
今日今日(けふけふ)と 吾(あ)が待つ君は 石川(いしかわ)の
貝に(一に云ふ、「谷に」)交(ま)じりて ありといはずやも (今日こそ今日こそと わたしが待っているあなたは 石川の貝に(または、「谷に」)混じって いるというではないの)
225
直(ただ)に逢はば 逢ひかつましじ 石川に
雲立ち渡れ 見つつ偲はむ (直接逢おうと思うならば とても逢えないであろう 石川に 雲よたち渡れ せめて雲を眺めてあの人を偲ぼう)
巻二 丹比真人(たぢひのまひと) 名欠けたり 柿本朝臣人麻呂が心に擬して、報(こた)ふる歌一首
226
荒波に 寄り来(く)る玉を 枕に置き
吾(あれ)ここにありと 誰(たれ)か告げけむ (荒波に 打ち寄せてくる玉を 枕に置き わたしがここに伏せっていると 誰が知らせてくれたのであろうか
注:この歌は、瀕死の人麻呂の気持ちを汲んで、前の依羅娘子(よさみのをとめ)の歌に和したもの。 或本(あるほん)の歌に曰く、
227
天離(あまざか)る 鄙(ひな)の荒野(あらの)に 君を置きて
思ひつつあれば 生けるともなし (天離る)(遠国の荒れ野に あなたを置いて 思い続けていると 正気もない)
右の一首の歌は作者未詳。ただし、古本この歌を以(もち)てこの次(つぎて)」に載せたり。 (右の一首の歌は、作者が明らかでない。ただし、古い本にはこの歌をこの順番に載せている)
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