万葉の悲劇 その九 研究資料 |
万葉集巻第二 |
有間皇子挽歌 |
@ 有間皇子、自ら傷みて松が枝を結ぶ歌二首
141
☆磐代の 浜松が枝を 引き結び 真幸くあらば また還り見む
142
☆家にあれば 笥に盛る飯を 草枕 旅にしあれば 椎の葉に盛る
A 大宝元年辛丑、紀伊国に幸しし時、結び松を見る歌
一首
(柿本人麻呂歌集より)
146
後見むと 君が結べる 磐代の 子松がうれを また見けむかも
(のちに見ようと、あなたが結んだ磐代の松、当時の小松だっ た時の梢を再びご覧になったでしょうか。)
B 長 忌寸 意吉麿、結び松を見て哀しび咽ぶ歌 二首
143
磐代の 岸の松が枝 結びけむ 人は帰りて また見けむかも
(磐代の海に望む崖の上の松の枝を結んで、幸いを祈ったとい う人は、無事に帰って再び松の枝を見たのだろうか。)
144
磐代の 野中に立てる 結び松 情も解けず いにしへ思ほゆ
(磐代の野の中に立っている結び松の枝は今も解けずにあるが、 それを見る私の心も解けず、昔のことが悲しく思われる。)
C 山上臣憶良、追ひて和ふる歌 一首 145
鳥翔成 あり通ひつつ 見らめども 人こそ知らね 松は知るとも
(皇子の魂は常にこのあたりの空を通って見ていらっしゃるであろうが、人はそれを知らなくても、結び松はよく知っているであろう。)「鳥翔成」は不詳。「つばさなす(翼なす)」と「あまがける(天翔る)」の説が有力。 |