「羅生門」を読む
 
               
 
     1  学習のねらい
 
(1) 近代小説として読む                                    
@ 作者の再現している社会や人生の姿(虚構)を通して、作者の追求している真実をとらえ、
A それが作者の表現(散文)とどのように関わっているかに注意して、
B 作者が作品の中で実現している主題(思想内容)をとらえる。         
 
 羅生門は推敲が重ねられ計算され尽くした作品であるが、主題につては諸説あるので、柔軟にとらえる。
 
(2) 短編小説として読む                                    
@ 表現が単一性に貫かれていること。
A 社会や人生や歴史の姿の切断面であること。
 
(3) 設問を導入して読む  ・・・・・・ 学習ノート 参照
 
@ 心理を読みとるために                           
心理の流れを把握することは、小説を読解する上で重要である。心理の流れを大きく誤解しないために、予め目安となる部分を設問として提供する。しかし、解答に追われて、心理の微妙なひだや小説を読む楽しさを失う恐れがあるので、注意を要する。      
A 書く力をつけるために
書く力を養う時間は取りにくい現状にあるので、読解していく過程で書くことを進めることが、現状ではベター
であろう。
 
(4)  
   
 羅生門は朗読に適する作品である。朗読を通して小説を語る面白さを味わう。
 
  2      「羅生門」の主題
 
@ 吉田精一説 (「芥川龍之介」昭和十七年)
 
 この下人の心理の推移を主題とし、あわせて生きんが為に、各人各様に持たざるを得ぬエゴイズムをあば
いてゐるものである。
 
A 三好行雄説 (「現代日本文学大事典」昭和  年)
 
 彼ら(下人・老婆)は、生きるためには仕方のない悪のなかでおたがいの悪をゆるしあった。それは人間の
名において人間のモラルを否定し、あるいは否定することを許容した世界である。エゴイズムをこのような形 
でとらえるかぎり、それはいかなる救済も拒絶する。
 
B 駒沢善美説 (「芥川龍之介論」昭和  年)
 
 下人が老婆の行為を激しく憎むというのは善そのもの、老婆から着物を奪おうとするのは悪そのもので、
人間そのものの中に本質的にまぬがれがたく持っている、善と悪の姿をみている。すなわち、作者は認識
者の視点に立って、矛盾の同時存在たる人間をみている。
 
C 平岡敏夫説 (「羅生門論」昭和四八年)
 
  作者がやや得意になってうち出した下人の心理の推移・・・老婆の論理を逆に自己の論理とするなどの心
理は、枠組みであって、これが作者が全存在をかけて言いたかったこと、あるいは読者をして感動せしめるこ
とではあるまい。この作品の魅力は、この平凡な、どこか憎めない、しかも雨の夜の羅生門という舞台がその
"sentimentalisme"に影響するような男を視点に、髪を抜く妖しい老婆や死体を配しての、羅生門がかもし出す、
王朝的、というよりかなりエキゾチックな雰囲気の世界それ自体にあると言えるのではないか。ここではむしろ
羅生門が主役であろう。題名が「羅生門」となっているのもゆえなきことではない。
 
D 岩上順一説 (「歴史文学論」昭和  年)
 
  下人の行為には大正初年のアナーキズムの論理が見い出され、経済的困窮を理由にして、暴力的に、
非合法的に、他人からその所有物を強奪しようとする、その論理は、論理的に破滅せざるを得ないという主
題をひき出せる。
 
E 今日の最も標準的主題
 
  平安末期の荒廃した京都の羅生門を舞台にして、職を失った若い下人の、追いつめられた極限状況下
での心理の推移を通して、人間の持つエゴイズムをあばこうとしている。
  
        羅生門推敲過程
 
 ★ 主人公について           
                     
  旧岩森コレクション[山梨県立文学館蔵]
 (古書店三茶書房主人 岩森亀一氏旧蔵)
                     
                     
  @交野平六 ・・・・・・→ A交野五郎   
                     
         ↓            
                    
  B一人の男 ・・・・・・・→ C一人の侍   
                    
         ↓            
                     
  D一人の下人(定稿)         
                     
                     
                                          余  談
                     
                                      末尾の一文について         
                     
                                    @ 初出 「帝国文学第二巻十一号]  
                                          (大正四年十一月)       
                                   「下人は既に雨を冒して、京都の町へ
                                     強盗を働きに急ぎつつあった。」       
                     
                                    A 短編集「羅生門」(阿蘭陀書房)  
                                           (大正六年五月)        
                                     「・・・・・・・・・・・・・・・ 急いでゐた。」
                     
                                    B 「新興文芸叢書8鼻」       
                                           (大正七年七月)        
                                     「下人の行方は、だれも知らない。」  
                     
                               戻 る   次へ