羅 生 門 |
学習ノート
問題と解答
第 一 段 一 この小説の主人公について、次のことに答えよ。 @ 年齢(理由も)
比較的若い男 → 「大きなにきび」とある。
A 境遇
長年使われていた主人から、四、五日前に暇を出され、これから先の暮らしをどうしてよいか途方に
く れている。
二 この小説に描かれている季節はいつごろか。文中から季節を表す部分を抜きだして、説明せよ。
[晩秋のころ] =「キリギリスが一匹とまっている」(キリギリスは古語ではこおろぎ)
「夕冷えのする京都はもう火桶が欲しいほどの寒さである」というぶんなどから、秋も終わりに近いことがわかる。
三 「ある日の暮れ方のことである」という書き出しの役割について、傍線部に注意しながら述べよ。
「ある日」=日付けを特定せず、非日常的表現。
「〜ことである」=現在形で、物語的効果の表現。
☆この書き出しは、物語的・非日常的・客観小説的趣を有する。
四 「所々丹塗りのはげた、大きな円柱に、きりぎりすが一匹とまっている。」(二八・A
) という表現は、場面を設定する上でどのような効果があるか。
荒廃した、無人の羅生門の寂しさを強調している。
(追いつめられた、寂しく孤独な人間の姿をも暗示している)
五 「なぜかというと」(二八・ E )によって示されている理由は、どこまでか。最後の五字で記せ。 (句読点を含む)
「のである。」
六 「からす」と羅生門の「夕焼け」の描写は、どのような表現効果をあげているか。
夕焼けの赤の中に不吉な感じのする「からす」が、黒い点々となって群がり飛ぶ。その下に巨大な羅生門が黒く大きなシルエットとなって浮かび上がる。
⇒舞台のスケールの大きさと、不気味さ、虚しさ、寂寥感、孤独感などを漂わせる。
七 「右のほおにできた、大きなにきび」(三0@)の描写はどんな効果があるか。また、これ以後にある「にきび」の描写を指摘せよ。
(効 果)
@主人公の年齢の推定。
A若々しい生き生き方した、生身の人間の姿(リアルな人間の姿)
B現代人のイメージに通じ、現代的雰囲気を醸し出す効果。
(他の部分)
◎「赤くほおにうみを持った大きなにきびを気にしながら(老婆の話を)聞いている」
◎「一足前へ出ると、不意に右の手をにきびから離して」
八 下人が主人から暇を出された理由は、「衰微の小さな余波」(三0・F
)によるとあるが、具体的にはどのようなことであるか。
(時代の変動)
地震・辻風・火事・飢饉などの災い →京の町の衰微 →主人の家の衰微
→長年仕えた使用人の解雇
京の町の変動から見れば、下人の解雇は小さなことにすぎない。 →しかし、下人にとっては、生死にかかわる大事件である。 →変動の波をまともにかぶるのはいつも庶民である。
九 「平安朝の下人の Sentimentalisme に影響した」(三0・ I
)とあるが、「平安朝」という古典的雰囲気の中で、外国語(フランス語)を用いたのはなぜか。
@平安期という夢幻的気分の枠を作る一方で、その、
A昔話的歴史小説の中に外国語を入れることにより、主人公の心理の現代的解釈を加えようとしている。
Bフランス語によって、英語とは異なった知的で洒落た(ハイカラな)ニュアンスを持たせようとした。
一〇 「雨は、羅生門を包んで、・・・・重たく薄暗い雲を支えている」(三0・N)は、単なる情景描写 だけでなく、下人の心理とも重なりあった描写になっている。次のことは、下人の心理とどのようにかかわっているか。
@雨の降り方
晩秋の驟雨(しゅうう)の降り様は、途方にくれている下人の心を、焦燥的な気分に追い立てる。
A夕闇
だんだん色濃くなっていく夕闇は、下人の心を暗く不安なものにする。
B重たく薄暗い雲
重苦しくのしかかる暗い雲は、下人の心を絶望的な思いにさせる。
☆また、この部分は、小説の流れの中でどんな役割りをしているか。
(1)「どうにもならず迷っている下人の心情」と
(2)「重く沈んだ周囲の描写」とが、重なり合って、決心のつかない下人の心情を強調している。
一一 「何度も同じ道を低徊したあげくに、やっとこの局所へ逢着した」(三一・G
)において、
@「同じ道」とは、どのような考えの過程を指すか。
1 何をおいてもさしあたり明日の暮らしをどうにかし よう
2 どうにもならないことをどうにかするためには、手 段を選んでいるいとまはない
3 選んでいれば・・・飢え死にする → 1に返って堂々巡りする。
A「この局所」とは、ここでは何を指すか。
「選ばないとすれば」という問題解決のための重要なポイント。
一二 「すれば」(三一・ I )が「 」付きで書かれているのはなぜか。二つの理由を示せ。
(1)実際の行為としてではなく、あくまでも論理を展 開する上での仮定であることに過ぎないことを強調するため。
(2)同時に、論理の展開上は、下に「盗人になろう」
という結論が当然来るべきであるが、その決断を下せないで迷っていることを示すため。
一三 「積極的に肯定するだけの勇気が出ずにいたのである」(三一・
N )は、何が下人の心をとどめていたのか。
人間としての最後の倫理=良心
一四 「大儀そうに」(三二・@ )とあるが、どうして下人は大儀そうだったのか。
(1)四、五日洛中を放浪し、精神的にも肉体的にも疲労しきっているため。
(2)肯定したくないことを肯定せざるを得ない重圧感のため。
一五 「きりぎりすも、もうどこかへ行ってしまった」
(三二・B )という描写には、どのような効果があるか。
@静かに時間の経過したことを示す効果。
Aきりぎりすも帰るべきところへ帰っていって、一層下人の追いつめられた状態を暗示する効果。
一六 「人目にかかる恐れのない」(三二・ E)場所を考え、「人がいたにしも、どうせ死人ばかりである」(三二・ G)と、生きた人間を避けようと
した下人の心理は、どういうところから生じたものと思われるか。
下人のこころには、盗人=悪という考えが強く、自分 の価値判断からすると、悪となるところに、自分の行 動が及ぶと考えただけで、自己の存在を暗いものに見 たのではなかろうか。
★ 第一段の主な指示語
@「それ」(二八・D)〓「雨やみをする市女笠や揉烏帽子がもう二、三人はあろそうなもの」
A「その」(二八・H)〓「仏像や仏具を打ち砕いて 〜 薪の料に売っていたという」
B「その代わり」(二九・C)〓「日の目が見えなくなると 〜 足踏みをしないことになってしまった」 代わり
C「それ」(二九・F)〓「何羽となく輪を描いて、高い鴟尾の周りを鳴きながら、飛び回っている」からす
D「そのうえ」(三0・H)〓「雨に降り込めらた下人が行き所なくて、途方に暮れていた」うえ。
E「その後」(三一・L)〓「すれば」のあと。
F「そこ」(三二・F)〓「雨風邪の憂えのない、人目にかかるおそれのない、一晩楽に寝られそうな 所」
第 二 段
一七 「それから何分かの後である。」という一文は、どんな効果をもたらしているか。
読者の視点をいったんそらせ、場面の転換を図って、それまでの静的な筋うぃ一気に動的な世界に引き込む働きをしている。
一八 下人のことを「一人の男」(三二・J)と言い換えたのはなぜか。
異常な世界への場面転換を図ったことにより、新たな状況下に置かれた「下人」の姿を、読者に印象づけるため。(緊張感や不気味さが出てくる)
一九 「猫のように」(三二 ・K)・「やもりのように」(三三
・C)という比喩は、どのような効果をねらったものか。
単にその場面に適した比喩であるという以上に、極限状況下における人間の動物性が露呈されるさまを、意図的に表現したもの。
二十 「それ」(三三・@)とは、どういうことを指すか。
上では誰かが火を点して、しかもその火をそこここと動かしているということ。
二一 「この雨の夜に、この羅生門の上で、火をともしている」(三三 ・A)ということが、どうして、 「どうせただの者ではない。」という判断の材料となるのか。二つ挙げよ。
@ただでさえ薄気味悪い雨の夜に、死人がいるといわれ 人の近づかない羅生門の上にいるというだけで、人目 を避ける種類の人間である。
Aところが、人目を避けるどころか、火を点して、おの れの存在を知らせているのは、下人にとっては、計り 知れない不気味な人間と判断された。
二二 「ある強い感情」(三三 ・O)とは、
@ どのような感情か。
六分の恐怖と四分の好奇心
A どのようなことによって引き起こされたか。
異様な老婆が、たいまつを持って、死骸の中にうずくまり、死骸の顔を覗き込むという、予想外の情景を見たから。
二三 「恐怖が少しずつ消えていった」(三四・K)のはなぜか。
老婆が死骸の中にいたのは、死人の髪の毛を抜くことが目的であるということが分かってきたから。
(下人は、もっと異様な、もっと恐ろしい行為を予想していたのであろう)
二四 @「この雨の夜に、この羅生門の上で、死人の髪の毛を抜くということ」(三五・D)を、下人はどうして「それだけで既に許すべからざる悪」と判断したのであろうか。
Aまた、作者はこのような表現によって、どういうことを言いたかったのか。
@「雨の夜に〜」は、「悪」の判断の合理的根拠にはならない。陰鬱に降り続ける雨に濡れる、荒廃した羅生門の上で、死人の髪の毛を抜くという異様な行為が重なって、感情的・情緒的に「悪」と判断たのである。
A下人は、自己の体験外のものを判断するのに、感情・情緒によってするということ。⇒状況の変化によっては盗人にもなるということ。
二五 「それほど」(三五 ・@)の「それ」の指示内容を示せ。
「さっき門の下で 〜 飢え死にを選んだ」に違いないほど。
¨ 第二段の主な指示語
@「それから」(三二 ・J)〓 下人が「腰に下げた聖柄の太刀が〜いちばん下の段へ踏みかけ た」時から。
A「それが」(三二 ・N)〓 「この上にいる者は死人ばかりだと、たかをくくっていた」こと。
B「これ」(三二 ・O)〓 「上ではだれか火をとぼして、しかもその火をそこここと動かしているら しい」こと。
C「その中」(三三 ・H)〓「楼の中」の「うわさに聞いていたとおり」「むぞうさにうち捨ててある」 「幾つかの死骸」の中。
D「その時」(三四 ・A)〓「ある強い感情が、ほとんどことごとくこの男の嗅覚を奪ってしまった」時。
E「その長い髪」(三四 ・H)〓老婆が「今まで眺めていた死骸の」長い髪。
F「この時」(三四 ・ M)〓「あらゆる悪に対する反感が一分ごとに強さを増してきた」時。
H「それ」(三五 ・ D)〓「老婆が死人の髪の毛を抜く」ということ。
第 三 段
二六 「そこで」(三五 ・G)の指示内容を示せ。
「この雨の夜に、この羅生門の上で、死人の髪の毛を抜くということが、それだけで既に許すべからざる悪であった」と思うことで。
二六 「執拗く黙っている」(三六 ・D)老婆の行為の原因を、下人はどのように解釈したと思われ るか。
下人(自分)に対する恐怖と、逃れられないと判断しての観念のためと解釈した。
二七 この段での下人の心理の推移を整理すると、次のようになる。
@老婆の生死が自分の意思に支配されていることを意識する。
Aこの意識が憎悪の心を冷ます。
B仕事が円満に成就した時の安らかな得意と満足。
C老婆の答えの平凡さに失望。
D同時に、前の憎悪が、冷ややかな侮蔑と一緒に生じる。
1 下人はなぜ、ABの心理になったのか。
下人は元来、感情・情緒に左右され易い人間で、合理的根拠で憎悪の心を起こしたものではなかった。
自分が支配者になったという状況変化により、弱者に憐れみを持ち、仕事の成功と同次元の感動に浸ったため。
2 下人はなぜ、Cの心理になったのか。どんな答え を期待していたのか。
その場の異様な雰囲気から、もっと異常な答えを予想し、期待していたのに、平凡な下世話の行為であることが分かったため。
3 Dの心理を具体的に説明せよ。
前の憎悪は、階段から覗き見した時の、「悪」(雨の夜の老婆の行為)に対する激しい憎悪である。
しかし、支配者となった今は、激しく強い感情はおさまり、答えの平凡さに失望し、相手の行為をくだらないものと見、相手をつまらない人間と見る侮蔑の感情が起こり、冷淡に見下している。
従って、この今の憎悪は、悪に対するものではなく、醜悪なものに対する感覚的な憎悪と考えられる。
二八 「肉食鳥のような」(三六 ・ N)という比喩は老婆のどんな印象を強めているか。
@死者を傷つけることによって生きている不気味な印象。A経験を積み、ずる賢く世渡りをする [=老獪(ろうかい)な]性格。
二九 「なるほどな」(三七 ・ G)以下の部分で、自分の行為を正当化している老婆の論理の要点 を二点挙げよ。
@相手が悪を働いていれば、相手に悪を働いても許される。
A生きるため「しかたなくする」のであれば、悪を働くことも許される。
© 第三段の主な指示語
@「それでも」(三五 ・M)〓 下人が「行く手をふさいで」「おのれ、どこへ行く」と「ののし」っても、
A「その気色」(三七 ・D)〓 老婆の答えの平凡さに、失望すると同時に、下人の心に生じた憎悪と冷やかな侮蔑の気色。
B「そのくらい」(三七 ・H)〓「死人の髪の毛を抜くということ」ぐらい
C「これ」(三七 ・N)〓「死人の髪の毛を抜くということ」
第 四 段
三〇 次の勇気は、各々どのような勇気であるか説明せよ。 @「さっき門の下で、この男には欠けていた勇気」(三八
・E)
「盗人になるより外にしかたがない」ということを積極的に肯定するだけの勇気。
A「老婆を捕らえた時の勇気」(三八 ・F)
あらゆる悪に対する反感を持って、老婆の行為を許すべからざる悪であると断定し、それに立ち向かおうとする勇気。
B「全然反対な方向に動こうとする勇気」(三八
・ F)
盗人になることを積極的に肯定しようとする勇気。
三一 「きっと、そうか。」(三八 ・J)と念を押したのはなぜか。
老婆の話を聞き、盗人になる決心をした下人は、自分の決心を正当性を確認しようとしたため。
三二 「下人はあざけるような声で」(三八 ・K)
念を押したのはなぜか。
自ら墓穴を掘り、今度は自分が危害を受ける側になるとも知らない老婆を嘲っているのである。
三三 「老婆の襟がみをつかみながら、かみつくようにこう言った」(三八
・ L)は、どのような効果をもった表現か。
@「襟がみ(=首筋の髪)をつかんだことで、優位に立った下人の立場を示し、
A「かみつくように」の比喩は、下人の非常な行動を表す効果をもっている。⇒
遂に下人は、「悪 を実行する言葉を吐くのである。
三四 「下人は・・・またたく間に急なはしごを夜の底へ駆け下りた」(三九
・B)のは、なぜか。
羅生門の上は、非力な老婆と死人ばかりで、目下のところ最も安全な場所ではなかったか。
それなのにどうして、急いで雨の降る門外へ出なければならなったのか。
老婆の論理によって、盗人になることの正当性を見い出したにもかかわらず、やはり[盗人=悪]の価値観は抜けきらず、「人目(=ここでは老婆も含む)にかかる恐れのない」場所へ逃げ込みたかったと思われる。
三五 「夜の底」(三九 ・C)・「短い白髪を逆さまにして」(三九
・G)・「黒洞々たる夜」(三九 ・G) などの表現を、この小説が初めから描いてきた雨の夜の荒廃した羅生門という場面との 関係で考えたとき、どのような表現効果をあげているか。
白と黒の対照(コントラスト)が鮮明で、不気味な印象を与え、冒頭からの不気味なイメージの延長で、物語のクライマックスを感じさせる。
三六 「外には、ただ、黒洞々たる夜があるばかりである。」(三九
・G)の部分は、どんな効果を与えるか。
飢餓の極限では、互いの悪を許容し合うしか生きられない、人間存在に伴う底知れない、救いようのない暗さを強く印象づけている。
三七 「下人の行方は、だれも知らない。」という結びの一文の表現効果について説明せよ。
(解答例)読み手が、作品世界から突き放されたような感じを抱き、同時に余韻を含んだ効果をもたらす。
ª 第四段の主な指示語
@「その時」(三五 ・13)〓 「ある勇気が生まれてきた」時。
A「それから」(三六 ・10)〓下人が「はぎ取った〜またたく間に急なはしごを夜の底へ駆け下りた」時から。
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場 所 |
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段 意 |
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1 |
初め 〜 |
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「飢え死に」 か 「盗人」 かの 二者択一に迷い どうしようもなく途方にくれている。 |
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2 |
〜 |
はしごの 中 段 |
のぞき 見 |
死人の髪の毛を抜く老婆を見て、悪に対する 憎悪と勇気(正義感) が生まれる。 |
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3 |
〜 |
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老婆を倒して 得意と → 憎悪と 満足 侮蔑 [ 老婆の告白 ] |
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4 |
〜 終り |
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新しい勇気(引剥) ↓ 黒洞々たる夜に消える |
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