古典としての万葉集 古典は、文化遺産です。古典は過去のものであるとともに現代のものです。したがって、時代と共に常に新しく読み直される運命にあります。とはいえ、古典の内容を現代に都合よく解釈してはなりません。
万葉集は言うまでもなく、源氏物語や平家物語と並ぶ古典の代表です。万葉集には、全体を貫く思想があり、各々の歌には、作者のモチーフや意図があり、主題があり、構想や素材があり、それに伴う表現があります。そこには、上代の思想や時代固有の約束と文法があります。それらは現代人にとって難解ではありますが、その困難さを超えて感動を呼び起こす何かがあります。
それは、突き詰めれば、古典の持つ理念(イデ=永遠の真実在)です。その理念にいささかでも触れて感動することは、現代に生きる創造力を養うことになると信じます。
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和歌文学としての万葉集 和歌は、日本文学史を貫く一つのバックボーンです。あるいは、一つの山脈です。特に万葉集は、その中で、古今集や新古今集とともに最も典型的な山脈です。後の世代に与えた影響は大きいのです。
万葉集は、歌謡から五七調31音の短歌形式に収斂(しゅうれん)していく和歌形式のすべてを包含(ほうがん)しています。その意味でも文学史的意義が大きいのです。歌謡・長歌・旋頭歌(せどうか)・仏足石歌(ぶっそくせきか)
・そして短歌など、すべてにわたる歌に触れることができるのです。その山脈を形成する木々の種類の豊富さは、浜の真砂か夜空の星に匹敵します。
万葉集は、一世紀半にわたる歌を集めてあるために、作風や詠歌態度にかなり変化がみられますが、概して万葉人は、素朴で自由な精神を有していたといえます。恋の歌(相聞歌そうもんか)が多いのもそのためでありましょう。そういう万葉人の素朴な抒情と人間性を、時代背景(時代区分・事象・生活習慣など)の中で、読みとっていきたいものです。
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文法学習としての万葉集 万葉集の用語は、上代語です。学校で学ぶ古典文法の中心である平安語(中古語)
とは、異なった点が数多く見られます。したがって、万葉集において系統だった文法学習はむずかしい面があります。そこで、読解に即した文法の学習が必要となります。
平安語の文法と同じものはもちろんのこと、万葉集に特徴的に現れる語法も学びたい。例えば「未然形+めや(も)」、「名詞+を+形容詞語幹+み」、格助詞および助動詞「ゆ」、副詞「ここだ」、未然形+終助詞「な」 など。
なお、用字法(万葉仮名、甲乙類など)は、はじめはごく簡単に触れる程度で読んでいきたい。
しかし、和歌特有の、枕詞、序詞,句切れ などの修辞法は、歌の構想や主題を理解する上で重要となりますので、よく学習していきたいものです。
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